以下は、2026年4月20日から24日にかけて、世界銀行東京防災ハブが防災グローバルファシリティ(GFDRR)と連携し、日本政府およびカナダ政府の資金協力を得て開催した「緊急事態への備えと対応(EP&R: Emergency Preparedness and Response)アカデミー」におけるセッションの概要です。
「緊急事態対応に関する対話とシミュレーション」と題した同セッションでは、体系的に整理された日本の緊急事態管理制度を切り口に、災害への備えと対応を支える制度面・実務的の仕組みを検討しました。東京大学生産技術研究所附属災害対策トレーニングセンター(DMTC)の沼田宗純准教授が講師を務め、参加者はガバナンス、情報伝達、救助、避難、インフラ復旧など8分野にまたがる、47の災害対応業務に関する分類体系を学びました。同枠組みを踏まえ、参加者はグループに分かれ、実際のハザードシナリオに47の業務を当てはめる複合災害シミュレーションに取り組みました。
主なポイント
役割分担の明確化が、日本のEP&R枠組みを支えている
沼田准教授は、災害対応のあらゆる段階において、誰が何を担うかを明確にした、体系的かつ法的根拠を備えた緊急対応の枠組みの重要性を強調しました。1995年の阪神・淡路大震災では、生存者の70%以上が専門の救助隊ではなく地域住民によって救出されており、こうした経験を踏まえ、災害対応の全責任を一つの機関だけで担うことはできないとも指摘しました。日本の緊急対応の枠組みでも、国の各省庁、地方自治体、民間セクター、NGO、および地域コミュニティの間で役割が明確に分担されており、これらは法律、事業継続計画(BCPs)、そして災害派遣医療チーム(DMAT)制度といった関係機関の間の連携体制などを通じて明文化されています。
緊急対応能力はあっても、制度上の役割分担が定まっていない国は少なくない
グループシミュレーションでは、各国から参加した担当者が、47分類の災害対応業務の枠組みを自国の実情に当てはめ、各業務についてどの省庁・機関が責任を負うのか、またそれを裏付ける法的権限や政策枠組みが存在するのかを整理しました。同作業を通じて、避難所運営、被害認定、災害廃棄物処理、そして高齢者施設や要配慮者利用施設に入所する支援の優先度の高い人々との連携といった分野で、特に大きな課題が浮き彫りになりました。その後、各チームは実際の災害事例を踏まえた実践的なシナリオ演習に取り組みました。続く議論では、多くの国が一定の緊急対応能力を備えている一方、重要な業務ほど責任の所在が分断・重複し、あるいは定まっていない実態が浮き彫りになりました。こうした論点は、体系的なギャップ分析が、危機への備えの計画づくりに有効であることを改めて示しています。
得られた教訓と今後の展開
本セッションから得られた重要な教訓の一つは、日本が長年の災害経験を通じて培ってきたシミュレーション手法が、他国の状況にも適用可能だという点です。参加者からは、各国の行動計画を体系化し、関係省庁が担うべき危機への備えの役割を明確にするために、実践的な分析ツールを備えておくことが重要で、これは必要に応じて法制度や政策の見直しを働きかけていく上でも有効だという指摘がありました。今後、参加者は、緊急対応業務に関する日本で実証済みの厳密な分類体系を自国の制度に当てはめ、従来の計画づくりでは見落とされがちだった制度上の空白や法制度の盲点などを洗い出していくことが期待されます。