バングラデシュのサイクロンや洪水、ブータンの地すべり、ドミニカ共和国のハリケーンや暴風雨、ベトナムの台風に至るまで、自然災害は世界各地の電力システムに深刻な影響を及ぼしており、その脅威はますます高まっています。被害の形はそれぞれ異なりますが、課題は共通しています。「災害に耐え、停電を最小限に抑え、迅速に復旧できる電力システムをどのように構築するか」という問いです。

日本は長年にわたり、地震、台風、洪水をはじめとする多様な自然災害と向き合ってきました。その経験の蓄積が、電力セクターの強靭性と信頼性を支えています。2026年5月、バングラデシュ、ブータン、ドミニカ共和国、ベトナムから16名のエネルギー専門家が来日し、「電力システムの強靭性とアセットマネジメント」をテーマとした5日間のナレッジ交流プログラムに参加しました。このプログラムは、 世界銀行が主催し、防災グローバルファシリティ(GFDRR)および「日本−世界銀行防災共同プログラム」の支援を受けて実施されました。参加者は、日本の防災のアプローチ、重要なエネルギーインフラの保護対策、そして迅速な復旧計画のあり方を、現場で直接学びました。

「日本では、(災害から立ち直る)強靭性が文化として、日常生活の中に自然と根付いているように感じられます。変化する環境に社会が対応し、機能し続けられるような文化なのだと気づかされます。――メルセデス・アレクサンドラ・アリアス・ドミンゲス(ドミニカ共和国、東部電力配電公社(Empresa Distribuidora de Electricidad del Este)戦略企画部長)

写真キャプション:中部電力株式会社および飯田市の協力のもと、飯田市マイクログリッド施設を視察した参加者たち。写真:世界銀行

強靭性は制度に宿る

今回のナレッジ交流プログラムを通じて日本から得られた重要な教訓は、「強靭性はテクノロジーだけで築けるものではない」ということです。京都大学の長山浩章教授は、プログラム冒頭の講義で日本の電力セクターがいかにして強靭性を高めてきたかを振り返りました。そのプロセスは、災害の発生、災害後の検証とリスク評価、そして、そこから得られた学びを制度改革に繋げていくというサイクルの繰り返しによって成り立っています。 2018年の北海道胆振東部地震や相次ぐ大型台風といった近年の災害は、新たな法整備を後押しし、設備・運用基準の強化に加え、電力会社、地方自治体、国の関係機関がより緊密に連携して災害対応に当たることが求められるようになりました。参加者の一人は、「どれだけ優れた設備があっても、それを支える政策的とリーダーシップなしには機能しないだろう」と述べました。

ベトナム国営送電公社のトゥアン・アン・ファム局長は、日本における関係機関の強固な連携に注目し、「日本では、民間企業、電力会社、地方自治体、そして政府がしっかりと連携し、社会に対して非常に優れたソリューションを提供しています」と述べました。

ブータン・エネルギー天然資源省エネルギー局のダワ・チョードロン主任技術者は、視察で得た学びとして、「日本では、災害のたびに教訓が生まれ、そしてその教訓が単に記録されて終わるのではなく、必ず行動に移され、より強靭な計画づくりに反映されていました」と振り返りました。

写真キャプション:プログラム初日、世界銀行東京事務所にて、各国が自国の電力システムの現状、過去の災害経験、そして日本で学びたいことについてプレゼンテーションを行った。写真:世界銀行

日本の災害からの教訓は、名古屋での現地視察でも改めて強調されました。参加者は、トラック搭載型の移動式変電所が緊急時の電力復旧をいかに迅速化できるかを学びました。この技術が実際に試されたのが2019年の台風19号(令和元年東日本台風)です。長野県の豊野変電所が浸水した際、移動式変電所を活用することで、通常の復旧工法では209時間かかるところを39時間で電力供給を復旧させることができました。

「移動式変電所の概念を自国でも導入できれば、緊急時の復旧作業がはるかにスムーズになると思います。」――ファテマ・トゥズ・ゾーラ氏(パワーグリッド・バングラデシュ、バングラデシュ

154kVの寛政変電所では、中部電力パワーグリッドがドローンとAIを活用し、送電線の点検作業の迅速化と安全性向上を図る取り組みが紹介されました。雨天のため屋外での実演は叶いませんでしたが、エンジニアがビデオで実例を紹介しました。かつては5名の作業員が高さ60メートルの鉄塔に登り4時間かけて行っていた点検作業が、今では地上の2名のオペレーターによって約40分で完了できるようになっています。参加者にとって、この事例は、実用的なテクノロジーが作業員のリスクを低減し、設備の不具合をより早期に発見する助けとなることを示すものでした。また、市販のドローンと共同開発したソフトウェアを組み合わせたシステムであることから、そのシステムは、参加国への応用可能性も示されました。

写真キャプション:プログラム4日目、寛政変電所を視察する参加者たち。写真:中部電力パワーグリッド株式会社

教訓を実践へ

最終日、各国がこのナレッジ交流プログラムを通じて得た共通の学びと自国の優先課題を反映したアクションプランを発表しました。ベトナムは送電網の強化とAIを活用した予知保全の導入を計画しています。バングラデシュは送電鉄塔のドローン点検プログラムの設計に着手します。ブータンは蓄電池のパイロット事業と新たな電力市場の枠組みを柱とした電力網の近代化に向けた取り組みを開始します。ドミニカ共和国はエネルギーセクターを対象とした省庁横断型の緊急対応システムの構築を進めます。これは今回のナレッジ交流プログラムが示した大きな教訓である、「強靭性はテクノロジーや設備と同様に、データ共有、透明性、省庁間の連携にかかっている」という認識を体現するものです。

5日間のナレッジ交流プログラムは、単なる技術的な学びの共有を超え、強靭な電力システムを支える考え方や仕組みへの理解を深める機会となりました。強靭性は設備だけで実現するものではなく、制度、連携、そして一つ一つの災害経験を具体的な改革へと結びつける習慣の上に成り立っていることが、改めて示されました。それぞれ異なる自然災害のリスクに直面する4カ国にとって、日本での研修は強靭な電力システムの姿を具体的に示しただけでなく、各国での実践に向けて今後もともに取り組むためのネットワークを築く機会を提供しました。

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