日本は地震や津波のリスクに長年向き合う中で、東京大学生産技術研究所附属災害対策トレーニングセンター(DMTC)を中心に、緊急事態への備えと対応を効果的に進めるための主要業務を体系化してきました。2026年4月20日から24日にかけて、東京と仙台で開催された、世界銀行防災グローバルファシリティ(GFDRR)の「緊急事態への備えと対応(EP&R: Emergency Preparedness and Response)アカデミー」では、DMTCの沼田宗純准教授を講師に迎え、15カ国から40人を超える参加者が複合災害シミュレーションに取り組みました。参加者は、ファーストレスポンダーから財務省まで、政府機関や地域社会といったさまざまな立場を代表するグループに分かれ、自国での災害発生を想定した机上シミュレーションに取り組みました。停電や道路の寸断、人員不足など新たな課題が生じる中で、どのように対応すべきかを議論しながら進めました。

 

 

緊急事態対応計画は、実際の危機下で機能してこそ、その真価が問われます。これは同アカデミーで実施された複合災害シミュレーションを通じて得られた、最も重要な教訓の一つです。

 

災害時の対応について、沼田教授と議論する参加者

 

アカデミー期間中、参加者は47の災害対応業務に関するシミュレーションに取り組み、災害の状況が刻々と変化する中で、自国の制度がどのように機能するかを検証しました。参加者は、政府機関や地域社会などのさまざまな立場を代表するグループに分かれ、停電や道路の寸断、人員不足、複数機関との同時調整といった課題に直面する中で、状況に応じた判断を迫られました。

 

演習で用いられたのは、沼田准教授の協力のもと、東京大学生産技術研究所附属災害対策トレーニングセンター(DMTC)が開発したフレームワークです。同フレームワークでは、ガバナンス・情報伝達など、8分野にまたがる47の災害対応業務を整理し、災害発生前・発生時・発生後の各段階で、「誰が何を担うのか」を明確に示しています。

 

 

緊急時には、極めて短時間で重要な意思決定を行わなければなりません。しかし、どれほど優れた制度や計画を備えていても、役割が不明確で、複数機関の役割が重複し、さらに重要な機能が実際に検証されていない場合、緊急時に想定どおり機能するとは限りません。

 

 

DMTCが開発したフレームワークは、ガバナンスや情報共有はじめ、避難、救助、復旧にいたるまで、緊急事態対応に必要な役割を整理し、それぞれの機能を担う機関を明確にしています。同フレームワークが示す重要な考え方は、「緊急事態への備えと対応は、一つの組織だけで成り立つものではない」ということです。政府機関、地方自治体、民間セクター、地域コミュニティなど、多様な組織が各々の役割を明確に理解・連携して初めて、実効性のある災害対応が可能になります。

 

 

今回の複合災害シミュレーションでは、同フレームワークをシミュレーション形式で検証しました。参加者は、実際の災害対応さながらの複雑で切迫した状況を再現した、さまざまな災害シナリオに取り組みました。各国の制度にDMTCのフレームワークを当てはめながら、諸機関の役割分担を整理し、不足している機能はないか、実際の災害時にも十分機能する体制になっているか検証しました。

 

 

演習では、通常の計画策定時には見落とされがちな課題も明らかになりました。例えば、避難所運営、災害廃棄物処理、被害状況の把握、そして災害時要配慮者への支援といった重要な業務について、役割分担の不明確さ・重複・曖昧さなどの課題が明らかになりました。

 

 

また演習を通じて、災害対応の仕組みが実際の緊急時にどのように機能するかも見えてきました。参加者は、限られた情報下で意思決定を行い、関係機関と調整しながら刻々と変化する状況への対応を迫られました。その過程で、意思決定の遅れ、組織間の摩擦や調整の難しさといった課題も浮き彫りになりました。

 

 

演習後の振り返りでは、参加者の間で率直かつ実践的な議論が交わされました。災害時の役割の明確化、関係機関の連携強化、そして法制度や運用体制を整備するだけでなく、実際に機能する仕組みとすることの重要性について、改めて認識が共有されました。

 

 

国や制度が異なっても、共通していたのは、「備えは、あるものと考えるのではなく、実際に検証しなければならない」という認識です。

 

 

こうした考え方は、GFDRRが取り組むEP&Rの中核を成すものです。シミュレーションを活用した支援を通じて、世界銀行のタスクチームや各国政府は、机上の計画にとどまらず、実際の危機下でも機能する体制構築を進めています。危機が発生する前に、それぞれの役割分担や関係機関の連携、意思決定プロセスを検証することで、重要な課題を事前に把握することができます。

 

 

今回の演習を通じて、参加者は47項目の災害対応業務を活用した実践的な評価手法を習得するとともに、自国の防災体制の実効性を高めるために何が必要かについて理解を深めました。今回の演習が示した教訓は明確です。それは、災害対応の有効性は、災害が発生する前の備えによって決まるということです。「備え」とは単に計画を策定することではなく、その計画が実際に運用でき、関係者に十分理解され、必要なときに実行できる状態にあることです。つまり、災害への備えを強化するには、制度や計画を整備するだけでなく、検証を重ね、関係機関との連携を進め、いざという時に確実に機能する状態を整えておくことが重要です。

 

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