洪水、暴風雨、干ばつ―過去10年間に起きた災害は、マラウイの自然災害への脆弱性を浮き彫りにし、交通網を含む同国のインフラのレジリエンスを高める必要性を如実に示しました。例えば2022年1月に発生した熱帯性暴風雨「アナ」の影響により、マラウイの道路網は6,700万ドルを超える被害を受けました。同国内の道路およそ1,400キロメートルが劣化しており、降雨や洪水に極めて脆弱であると推定されています。
防災グローバル・ファシリティ(GFDRR)と世界銀行は、6,500万ドル規模の「強靭で戦略的な交通運営のための強化(RESTORE)プロジェクト」を通じて、マラウイの道路交通セクターのレジリエンス向上を支援しています。2025年9月に世界銀行理事会によって承認されたRESTOREプロジェクトを通じ、2030年までにマラウイでは約65万人に対し、より強靱で持続可能な交通へのアクセス改善が見込まれています。
RESTOREプロジェクトでは、国道網の中枢を担う重要な幹線であるM1道路を改修します。M1道路は、マラウイの主要な食糧供給地域の一つであるシーレ川下流地域と国内他地域を結んでおり、その改善は農業生産性の向上、ひいては同国の食料安全保障の強化に寄与します。タブワ~バングラ間の約90キロ区間を対象に、路面をアスファルトコンクリート舗装に改良するとともに、4つの橋の建て替えが行われる予定です。
「現在の主な課題は、洪水で道路が通行止めになるたびに輸送コストがかさむことです。貨物をボートで運ぶための追加費用に加え、1回の輸送ごとに2台以上の車両を使わなければならず、負担も大きくなっています。M1道路プロジェクトによって、こうした問題が解消されれば、今よりずっと利益を出せるようになるでしょう。また本プロジェクトはマーケット取引所の向上にもつながり、衛生環境が改善することで、清潔な環境で商売ができるようになると期待しています。」
―ンチャロ市場協会会長 レヴィソン・ンバウラ氏
さらに同プロジェクトでは、シーレ川北部の人口集積地とM1を結ぶ主要道路S152の改修も実施されます。タブワ〜セブン間の約60キロ区間を対象に、主要な橋1橋の架け替えと、暗渠の更新が行われる予定です。M1とS152の整備は、気候変動に対応できるように長期的なレジリエンスを備える設計となっています。
さらに、RESTOREプロジェクトは適応グローバル委員会(GCA)と協力し、気候変動に強靭な交通管理を実現すべく、マラウイの能力強化にも取り組みます。この能力強化に向けた活動では、主要政府機関の実務者向けに、気候変動に強靭な道路資産管理に関する研修を実施する予定です。また若手専門家や技術者を対象に、気候変動に強靭な交通インフラの計画・設計・施工・維持管理に関する実習プログラムも実施予定です。
RESTOREプロジェクトに対するGFDRRの支援は、日本政府の資金拠出のもと、「日本−世界銀行防災共同プログラム」を通じて実施されました。本支援は、日本の強靭な交通整備で培われた経験を活かしたもので、同プロジェクトにおけるインフラ設計に向けた分析を進めるうえで重要な役割を果たしました。また、道路資産の脆弱性評価では、M1およびS152において最も脆弱な区間を特定して適切な工学的対策を提示するとともに、流域・土砂管理の分析を通じて堆積や土砂流出のリスクに対応するための措置を提案し、両道路の保護につなげています。これらの脆弱性評価や各種リスク分析は、日本の大手建設コンサルタント会社に委託して実施されたもので、これらの結果は工学設計や投資の優先順位付けに反映されるとともに、今後のより高度な脆弱性評価を進めるための基盤になるものです。
RESTOREプロジェクトは、マラウイのレジリエンス強化に向けて世界銀行およびGFDRRが長年にわたって積み重ねてきた支援の一部をなすものです。過去、GFDRRの技術支援は世界銀行による2件の災害リスク繰延引出オプション(Cat DDO)の承認で重要な役割を果たしました。Cat DDOは災害や緊急事態発生直後に即時の資金流動性を提供する資金支援枠であり、マラウイは新型コロナウイルス感染症のパンデミックや、エルニーニョ現象に伴う2024年初頭の食糧危機に直面した際、Cat DDOの枠組みにより財政上のレジリエンスを確保することができました。
他にも、「日本−世界銀行防災共同プログラム」を通じた技術支援によって、マラウイにおける道路資産の脆弱性評価やジオハザードリスク管理に関する知識共有や研修機会が提供されました。こうした知識交換は、RESTOREプロジェクトの実施に活用されることが期待されています。また、RESTOREプロジェクトの技術評価を主導した日本のコンサルティング会社が、本技術支援の一環として2024年にマラウイ大学ビジネス応用科学大学(MUBAS)で公開講義を行い、交通工学分野において新たに求められる重要なスキルセットである道路資産の脆弱性評価やジオハザードリスク管理の手法について、学生や防災実務者に共有しました。同年にマラウイ国内で開催された防災シンポジウムにおいても、同社はRESTOREプロジェクトの道路資産の脆弱性評価に関する知見を発表するなど、防災に携わる多くの実務者に実務的な視点を共有しました。