Sachi Suzuki、Swarna Kazi

 

バングラデシュは、気候変動や急速な都市化、社会経済の変化に伴う新たな課題により、さまざまな災害リスクにさらされています。こうした状況を踏まえ、同国政府は事後的な災害対応を中心とした従来のアプローチから、事前の備えとして防災投資を重視する方向へと徐々に舵を切りつつあります。

では、バングラデシュが、より災害に強い国になるためには、何が必要でしょうか。

2025年7月、世界銀行は世界銀行東京防災ハブの支援のもと、バングラデシュと日本の間でさまざまなセクターにわたる技術面での知識交換を実施しました。同知識交換では、都市における災害レジリエンス強化の共通の目標のもと、バングラデシュ政府機関の技術担当者(バングラデシュ首都開発庁、バングラデシュ消防・民間防衛局、バングラデシュ水資源開発庁、地方自治体工学局、災害管理局、ダッカ北市公社、ダッカ南市公社)が参加しました。今回のプログラムでは、「強靭なインフラ整備」と「緊急事態準備・対応」の2つの重要テーマに焦点が当てられました。

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キックオフミーティング 

写真:世界銀行

東京大学での複合災害シミュレーション訓練

写真:世界銀行

都市化課題に対応する強靭なインフラ整備

インフラは、災害発生前の予防的な投資として位置づけられ、生命や財産を守るうえで重要な役割を果たします。バングラデシュではインフラの運営・維持管理を強化するとともに、革新的な手法を導入することが、限られた財政資源を最大限活用するうえで不可欠です。こうした観点から東京や京都の事例は、長期的な計画と徹底した維持管理、さらには建設設計の各段階にレジリエンスを組み込むことで、長期的な効果が得られることを示す好例となるものです。

今回、参加者は日本の人口密集河川流域にある2つの主要インフラ、首都圏外郭放水路と天ヶ瀬ダムを視察しました。

首都圏外郭放水路

写真:世界銀行

東京ではかつて、急速な都市拡大により、洪水が繰り返し発生していました。農地転用によって自然の洪水緩和機能は失われ、人的・物的資産が災害リスクの高い地域に集まるようになりました。こうした課題に対応するために整備されたのが、首都圏外郭放水路です。この地下放水路は、中小河川の洪水を地下に誘導し、トンネルを通じて余剰水を吸収可能な江戸川へ放流する仕組みです。2002年の部分的運用開始以来、首都圏外郭放水路は洪水被害を10億ドル以上削減し、被災世帯数は90%程度減少しました。この工学的解決策は、都市洪水対策における効果的かつ重点的な投資の好例です。

京都では、西日本を代表する大河川である大和川と淀川に建設された最初のダムとして、天ヶ瀬ダムが1964年に完成しました。同ダムは当初、洪水管理、水供給、そしてエネルギーの確保を目的に建設されました。これまで定期点検、堆積土砂の除去、放流能力向上のための新たなトンネル型放流路の設置など日本の優れた運営・維持管理が継続的に行われており、同ダムは建設から60年を経た現在でも、依然として効果的な機能を果たしています。

「インフラや設備の適切な維持・管理に投資することの重要性をあらためて実感しました。こうした取り組みによって耐用年数が延び、日々の運用も効率的に行われていました。」

— ジャウェド・カリム氏(地方自治体工学局 主任技師 兼世界銀行本融資プロジェクト プロジェクトリーダー)

また、東京都からは建物の耐火・耐震化に関する数十年にわたる取組みが共有され、建物検査の実施や財政的なインセンティブの供与、戦略的な土地取得などについて説明がありました。現在では、住宅街の65%以上が耐火化されており、目標の70%に近づいているほか、重要な施設の94%には耐震対策が施されており、都市のレジリエンスと公共の安全強化に対する東京都の強いコミットメントが表れています。

 

情報システムと研修による危機への備え

京都府危機管理センター

写真:世界銀行

 京都市消防活動総合センター

写真:世界銀行

防災科学技術研究所の大規模降雨実験施設

写真:世界銀行

効果的な危機対応には、信頼性の高い情報システムと経験豊富な人材が欠かせません。京都府危機管理センターでは、災害、物流、被害状況の評価、救援資源の配分、避難所の位置情報などに関するデータを収集・共有する包括的な体制が整えられています。関係者間の連携や迅速な対応を可能にするための法的・規制上の枠組みにも支えられています。

日本とバングラデシュの両国において、関係機関間の情報共有や研修、人材の確保に継続的な課題が生じています。日本ではこうした課題に対して、さまざまな革新的な手法が取り入れられています。国立研究開発法人防災科学技術研究所(NIED)では、専任の情報支援チームが被災自治体に職員を派遣しており、リアルタイムでの災害情報提供と分析を可能にしています。また、京都府では府職員が被災現場でのデータ入力支援を行うとともに、毎年大規模な合同訓練を実施しています。さらに京都市消防活動総合センターでは、消防職員やボランティア団体向けの体系的な研修も行われています。

「自治体中心の災害リスク管理は、災害の頻発・激甚化により、ますます困難になっています。都道府県、国、非被災自治体からのさらなる支援が不可欠です。」

— 古橋勝也氏(京都府危機管理部原子力防災課課長)

 

 

日本から得られる教訓

今回の知識交換を通じて、バングラデシュの参加者は、新たな技術やツールの導入に意欲を持つとともに、日本の防災管理の核心にある「事前の備え」の考え方の重要性をあらためて認識しました。研究・教育・研修・実践・評価を一体的に組み合わせた日本の防災システムが、高水準の防災体制を支えている点も高く評価されました。さらに、レジリエンスは省庁や機関、地域社会全体で共有すべき責任であることへの理解が深まるとともに、日本−世界銀行防災共同プログラムが危機への備えにおいてはたしている知識提供面でのリーダーシップに対して、参加者からは感謝の意が示されました。日本での知識交換から得た教訓を踏まえ、参加者は次世代の強靭なプロジェクトを展開していくことに強い意欲を示しています。

「参加者の情熱にとても感動しました。国のために貢献したいという彼らの真摯な姿勢に触発されました。」
— 吉川暢氏(京都市消防局総務部総務課広報係長)

本知識交換は、防災グローバル・ファシリティ(GFDRR)が運営する、日本−世界銀行防災共同プログラムのもと、日本政府の支援を受けて実現しました。