著者:Masatsugu Takamatsu、Ahsan Tehsin、Faridun Sanginov

タジキスタンの雄大な山岳地帯は、美しい景観と水資源をもたらす一方で、土砂災害リスク要因にもなっています。急峻な地形に気候変動の影響が重なり、同国は土石流、地すべり、氷河湖決壊洪水などの土砂災害に対して極めて脆弱です。こうした土砂災害は重要な道路を寸断し、周辺の集落を孤立させ、タジキスタンと周辺国を結ぶ交易路をしばしば混乱させます。直近では2025年8月、キルギス共和国国境へ至る国際幹線道路であるヴァフダト-ラシュト-ラクシュ幹線道路のラクシュ地区にある区間が、氷河湖決壊洪水により冠水し、住民の移動に大きな支障をきたしました。

こうしたリスクに対応するため、世界銀行はタジキスタン運輸省と連携し、対策が必要な道路の危険区間の特定と優先順位付けの革新的な手法を実証するため、道路地盤災害リスクのスクリーニングを実施しました。本取り組みは、世界銀行の「タジキスタン防災準備・レジリエンス強化(PREPARED)」プロジェクト実施を支援するために行われたもので、世界銀行防災グローバルファシリティ(GFDRR)の「日本ー世界銀行防災共同プログラム」の技術支援によって実現しました。

現地調査に先立ち、本プロジェクトでは同国とキルギス共和国を結ぶ主要高速道路のラビジャル~カラミク区間(約200キロメートル)を対象に、高解像度の衛星地形データ(2.5m数値表面モデル)および衛星画像(50cmオルソ画像)を用いたスクリーニングが実施されました。これらの高解像度データによって、斜面崩壊、落石、土石流、河岸侵食の兆候を示す危険箇所が150箇所以上特定されました。現地調査に着手する前に優先度の高い地点を高精度に抽出・マップ化することが可能となり、費用対効果の観点からも有効性が実証されました。

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図1. 対象道路沿いの地盤災害リスク・スクリーニングに用いた50cm解像度の衛星オルソ画像(出典:© CNES (2024), Distribution Airbus DS)、および2.5m解像度の数値表面モデル(出典:© 株式会社NTTデータ、JAXA)のサンプル

その後、現地調査とタジキスタン運輸省との協議を経て、ドローンによる詳細調査を行う優先箇所が決定されました。ドローンデータの解析により、詳細な地形データに加え、樹木の分布、最近の斜面崩壊、道路を横断する河道断面形状に関するデータが得られました。これらは、PREPAREDプロジェクトの下で検討中の、暗渠(あんきょ)・橋梁・河道等に対する土石流対策の計画・設計において重要な情報となります。

もう一つの特筆すべき成果は、現地の人材育成への貢献です。タジキスタン運輸省の職員約20名が、地理情報システム(GIS)によるデータ解析手法を学ぶ実践研修に参加し、今回取得した地形・地理空間データを用いて、リスク評価や対策工の計画・設計手法を習得しました。最終ワークショップでは、GIS研修の有用性に加え、多自然型工法を組み込んだ道路インフラへの土砂災害対策の計画づくりが特に有益であったとの感想が共有されました。これらの研修や計画づくりを通じて、同省の道路斜面崩壊や道路寸断への備えと対応能力は強化されてきたほか、ラクシュ地区をはじめ幹線道路への依存度が高い地域社会の暮らしや事業活動を、より的確に支援できる体制が整いつつあります。

タジキスタンでは、こうした日本の先進的な土砂災害対策の知見や豊富な経験を活用し、より安全で強靱な道路インフラの実現に向けて前進しています。

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図2. 高解像度の地形データおよびオルソ画像を用いて抽出した危険エリア © 世界銀行