アフリカ8カ国では、保健医療セクターのレジリエンス強化に向けた進展が見られており、その中の1カ国であるモーリタニアでは、技術支援により50の保健医療施設が洪水に耐えられるよう改修が進められています。
アフリカ全体で、質の高い保健医療サービスへのアクセスが限られていることは、同地域が抱える最も深刻な開発課題の一つです。特に農村部では、住民の最大15%が最寄りの保健医療施設から3時間以上かかる場所に居住しており、立地条件の良い施設であっても、人材、医療物資およびインフラの不足に直面しています。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックは、保健医療セクターにおける既存の脆弱性と複合的なショックが保健医療システムに危機を引き起こし、すでに限られた保健医療リソースにさらなる負荷を与える可能性があることを浮き彫りにしました。ある研究によれば、2020年から2021年にかけて、エチオピアおよびガーナでは保健医療サービスの利用率が低下し、特にケニアでは25%もの減少が見られました。
こうした状況に対応するため、世界銀行と防災グローバル・ファシリティ(GFDRR)は、日本政府のご支援のもと、世界銀行東京防災ハブが運営する日本−世界銀行防災共同プログラムを通じて、2023年からアフリカの8か国において強靭な保健医療システムの構築を支援しています。
同取り組みの中核は、世界銀行(国際復興開発銀行:IBRDと国際開発協会:IDA)が資金を拠出する保健医療システム強化プロジェクトに、災害リスク管理の要素を組み込むことができるよう、関連する様々な世界銀行のチームに技術支援と助言を行うことにあります。
これらの取り組みでは、GFDRRが開発した保健医療セクター向けの気候変動および災害リスク管理に関するツールや分析手法が活用されています。その一つである「フロントライン・スコアカード」は、一般公開されている各種データ、各国政府からの情報、世界銀行や世界保健機関(WHO)、その他国際機関の過去の評価に基づき、意思決定者が保健医療システムの強靭性を包括的かつ高水準で評価できる迅速診断ツールです。
モーリタニアでは、このスコアカードを用いて同国の保健医療システムにおける強靭性の課題を特定しました。また、保健医療施設の改修ニーズに関する追加データも、アンケート調査を通じて収集されました。これらの結果は、2028年までに50の医療施設を洪水に耐え得る構造に改修し、保健医療サービスへの継続的なアクセスを確保することを目的とした、総額7,000万ドルの「モーリタニア保健医療システム支援プロジェクト」の設計と実施に反映されています。フロントライン・スコアカードは、マリおよび南アフリカにおいても、世界銀行が支援する事業で活用されています。
日本−世界銀行防災共同プログラムを通じた取り組みは、各国が自国の状況に即したツールや分析手法を開発するための支援も行っています。たとえばモーリタニアでは、技術チームが同国の保健省と連携し、今後10年間にわたって同国の保健医療システムのレジリエンス強化の進捗を継続的にモニタリングできるツールを開発しました。このツールは、同国初となる気候変動および災害に対する保健医療システムのレジリエンス強化を目的とした、セクター横断的な政府委員会設立の基盤を築くのに役立ちました。
また南スーダンでは、プライマリ・ヘルス・ケア・システムにおける災害および気候変動リスクへの暴露評価が、総額1億1,700万ドルの「南スーダン保健医療セクター変革プロジェクト(HSTP)」の設計に反映されました。本プロジェクトでは、危機下においても継続的に機能する保健医療施設の整備を目的としています。
GFDRRおよび世界銀行による、アフリカにおける強靭な保健医療システム構築を推進させる取り組みは、世界全体で保健医療システムのレジリエンスを強化するための包括的かつ多面的な取り組みの一環でもあります。例えばカンボジアでは、分析を通じて平時における保健医療提供体制の需給ギャップを補完する手段として、多目的洪水避難所を活用する基盤が築かれました。
ベリーズでは、様々なショックに対して、同国の保健医療セクターを強靭化するための各種政策措置の優先順位付けと、コスト推計を手助けするツールの開発が進められています。このツールは、同国初となる「災害リスク繰延引出オプション(Cat DDO)」の保健医療分野における設計にも活用されています。世界銀行のツールの1つであるCat DDOは、災害発生直後に即時的で流動的な資金を提供し、レジリエンス強化のための政策措置を支援するものです。
こうした国別の分析支援は、強靭な保健医療システム構築に関するグローバルな知識基盤の形成と拡充にも貢献しています。日本の経験を踏まえ、最近発表された「ショックに備えた保健医療システムの構築」報告書では、保健医療システム、災害リスク管理、質の高いインフラの連携の重要性が強調されました。また2021年の「フロントライン」報告書でも、日本の事例をもとに、各国が保健医療システムのレジリエンスを強化するための包括的なロードマップが示されており、この重要な分野に関する国際的な政策議論の形成と深化に貢献しています。