地震や洪水などの災害リスクが高いルーマニアでは、人命と生計を守るため、緊急事態準備・対応(EP&R)システムの強化が着実に進められてきました。しかしながら、障がいのある国内約90万人(人口の4%)にとって、災害や緊急事態発生後の安全と生活の確保は、依然として十分とはいえません。現地でのフォーカスグループとのディスカッションや協議からも、同国のEP&Rシステムは、障がいのある人々のニーズに十分対応できていないことが明らかになっています。
防災グローバル・ファシリティ(GFDRR)と世界銀行は、ルーマニアのEP&Rシステムが障がいのある人々を誰一人取り残さない包摂的なものとなるよう、最前線で支援に取り組んでいます。本支援は、「日本−世界銀行防災共同プログラム」の下で実施されてきました。
本プログラムチームは、ルーマニア視覚障がい者協会(ABR)、ルーマニア聴覚障がい者全国協会(NADR)、ルーマニア赤十字社第6支部、ルーマニア国立障がい者権利保護機関(ANPDPD)など、多様なパートナーと緊密に連携し、消防士や警察官、救急隊員などのファーストレスポンダーを対象に、災害時や緊急事態における障がいのある人々への適切な対応方法について、研修の開発・実施を支援してきました。
これまでに、ルーマニア緊急事態局、ルーマニア緊急事態総局、ブカレスト市社会福祉総局などの機関から、計130名近くのファーストレスポンダー(うち女性30名)が参加し、視覚障がい者との接し方や手話でのコミュニケーションなど、重要なテーマに関する研修を受けています。それぞれのカリキュラムは、研修前に実施した参加者へのアンケート調査をもとに作成されました。
これら研修の大きな特徴の一つは、障がいのある人が講師として参加し、自身の体験に基づく知見を共有した点です。各講師が、災害時における障がいのある人々のニーズや対応力に関して、実体験に基づく具体的な知識やエピソードを参加者に伝え、理論だけでは得られない学びを提供しました。その結果、ファーストレスポンダーにとって、障がいのある人々への共感や理解が深まるとともに、固定観念を見直すきっかけともなり、多様な能力や視点を尊重する意識が育まれる機会となりました。また、障がいのある講師が前面に立つ姿を通じて、障がい者が単なる支援の受け手ではなく、自らレジリエンスを築く主体であり、教育者としても貢献できる存在であることが強く印象付けられました。
研修では実践的な手法も取り入れられており、参加者は目隠ししたパートナーを誘導するロールプレイングを通じて、実際の状況で必要なスキルを体験的に学べるよう工夫されました。また、災害時・緊急時の障がい者との具体的な関わり方や行動のポイントについても示されました。例えば、手話でのコミュニケーション研修では、事前にタブレットや携帯電話に定型文を用意しておくことで、聴覚障がい者との意思疎通が容易になる場合があることにも触れられました。
参加者へのアンケート調査によると、本研修は障がいのある人々と適切に接する能力の向上という点で、実際に成果を上げていることが示されています。参加者の80%が、研修によって障がいのある人々特有の脆弱性やニーズに対する理解が深まったと回答しており、64%が研修で得た知識や技能を実務に活かせるという考えを示しています。こうした成果を踏まえ、ブカレストで実施された本ファーストレスポンダー向け研修は、2024会計年度には大幅に拡大され、10県でより多くのファーストレスポンダーを対象に実施されるとともに、知的障がい者への対応ガイドなど技術的内容も拡充される見込みです。ANPDPDは、この支援拡大の主要パートナーとなっています。
防災グローバル・ファシリティと世界銀行による今回の支援は、包摂的なEP&R推進に向けた、同国との深化するパートナーシップの一部に過ぎません。例えば、現在実施中の「災害に強い包摂的かつ持続可能な学校づくりプロジェクト」への支援や、「災害リスク管理強化プロジェクト」の下、新設される消防署の設計におけるジェンダー包摂やユニバーサルアクセス確保への支援も進められています。また、防災グローバル・ファシリティの支援により、障がいのある学生や教職員を対象とした地震防災活動も実施されており、これまでに5校から約90名の学生と200名以上の教職員が参加しました。今後、防災グローバル・ファシリティと世界銀行は、ルーマニア政府とより緊密に連携し、包摂的なEP&Rをさらに推進する予定です。これには、現在策定中の第2次災害リスク繰延引出オプション(Cat DDO)事業も含まれ、障がいのある人々への備えの強化に重点が置かれる見込みです。Cat DDOとは、災害や緊急事態発生後に即時の資金流動性を提供するとともに、国の災害リスク管理能力強化に資する政策措置を支援する、条件付きの信用枠です。