ベトナム全土で1,200キロメートルを超える道路と約2,200の橋梁が強靱化され、1,130万人以上の生活が向上しました。
ベトナムはアジア太平洋地域で最も災害リスクの高い国の一つであり、洪水や地滑りといった自然災害にたびたび直面してきました。過去20年間だけでも、異常気象現象により1万3,000人以上が犠牲となり、経済損失はGDPの最大1.5%に達すると推計されています。
気候変動の進行に伴って自然災害が頻発化・激甚化する中、ベトナム政府は著しい経済成長を維持し、ひいては加速させていくためにも、インフラの長期的な強靱化に向けた計画的かつ協調的な投資が不可欠であると考えています。
防災グローバル・ファシリティ(GFDRR)と世界銀行は、ベトナムにおける強靱なインフラ整備を支援する重要なパートナーとして、これまで農村部の道路や橋梁のレジリエンス強化に向けた国家プログラムなどを後押ししてきました。
世界銀行の3億8,500万ドル規模の地方道路資産維持管理プログラムの支援により、これまでに1,200キロメートルを超える道路と約2,200の橋梁が強靱化されました。その結果、雨季の洪水でしばしば孤立していた地域の住民を含む1,130万人以上が、年間を通して交通インフラを利用できるようになりました。
こうした取り組みと並行し、GFDRRの支援のもと、気候変動に強い超高性能コンクリート(UHPC)を用いた橋梁の設計・建設に関するパイロット事業も実施されました。UHPCは極めて耐久性に優れた建材であり、優れた耐候性を有するほか、従来の材料と比べて二酸化炭素排出量を約30%削減するものです。本事業は「日本−世界銀行防災共同プログラム」の支援の下で実施されました。
「この橋のおかげで村の両側の地域を結ぶ安定したアクセスが確保されたことで、子どもたちは毎日通学でき、住民も年間を通じて病院に通うことができるようになりました。住民は大変満足しています。」
―ラム・ヴィー村長 モン・ディン・チュオン氏
同パイロット事業のもと、タイグエン省、ゲアン省、チャーヴィン省などの北東部を中心とする複数の省において、UHPCを用いた橋梁の再建が実施されました。一例として、雨季のたびに修繕や架け替えを繰り返していた仮設橋に代わり、UHPCを用いた「ランコー橋」が本事業によって整備されました。また、ハノイ中心部と国際空港を結ぶ主要橋梁である「タンロン橋」もUHPCにより再建されたものの一つです。
世界銀行とGFDRRは、再建されたインフラが長期にわたって適切に維持管理されるよう、国家および地方当局の能力強化にも注力してきました。例えば、道路・橋梁の維持管理に不可欠な地理空間データを収集・分析する統合プラットフォームとして、地理空間道路資産維持管理システム(GRAMS) の開発支援が行われました。このツールにより、国家および地方当局は道路の維持管理に関する予算を、より戦略的に配分できるようになりました。また、ベトナム道路局(DRVN)、民間企業、大学の専門家と日本の専門家との間で、UHPC橋梁の維持管理に関する知識交換も行われました。
能力強化の取り組みは、国家および地方当局にとどまらず、地域社会にも広がっています。例えば世界銀行の支援により、地域主体および女性主導の農村道路維持管理マニュアルが作成され、ベトナム全土で延べ5万キロメートルに及ぶ道路の維持管理に地域住民が積極的に参画しています。
ベトナムにおける道路・橋梁の強靱化支援は、GFDRRと世界銀行が同国で展開してきたレジリエンス強化の取り組みの一例にすぎません。過去には、ベトナム沿岸部の自然災害リスクを詳細かつ分野横断的に分析した「レジリエント・ショアーズ(Resilient Shores)」プロジェクトへの支援も行われており、沿岸開発に伴うリスクと機会の最適化に資する重要な知見の提供などが実施されています。